少年に会った


最近の釣りは暗がりが多い。
魚の活性に合わせると、どうしても夜になってしまう。
海面をなでてくる生暖かい風。
空には星がビッシリ。

いつもひとりだから心細いはず。
でも不思議と今では、静か過ぎるのが気に入っているのだ。

竿が、いきなり海中に突っ込む。
そうなることを信じている。
だから、気も抜けない。
ココロが張り詰めているということは、充実しているということ。
だから寂しさも、どこかへ飛んでいってしまう 
でも、二晩つづけて音沙汰がないとしたら・・・・ 夜が白んで、船上には少年がひとりだけ。
両手には自慢の小さなマダイが


釣れないときでも、ムキになるだけの気力が残っていた。
夜の8時過ぎに釣りから帰って、未明にまた舟をだした。
さすがに、同じことの繰り返しでは芸がない。
暗がりのなかを、疑似餌を曳いてスズキを狙ってみた。

ライトが当たった水面に小魚が寄り、それを捕食する音が耳に
焼きついて離れないのだ。
昨夜のことである。
どうせ眠れぬ夜ならいっそ起きてしまえ、と真っ暗な海に
飛び出したのだが、・・・・

夜でもブイの位置が、だいたい分かる。
何度も通っていると、自然に覚えるようだ。

二隻の船が、これも勝手知ったかのように走っていく。
おもわず、立ち上がってライトを向けた。
追突され、泳いで帰るのも辛いからね。

1隻を残して、片方の1隻は沖に向かっていった。
こんな未明に、船に出会うのも珍しい。
バケツの中はおさかな。いつのまにか猫
ここではとても珍しいお客です

スズキを求めて、どれほど歩き(はしり)回っただろうか。
岸寄りがダメなら、島寄りに。
島寄りがダメならブイ寄りに。

やがて東の空から白んできて、
気になっていた船上には、

  なんと、少年ではないか

「おとうさんと、一緒に来た。
 おとうさんは、イカ釣りに、沖の方へ、
  うん、
 小さいほうの船はボクが運転した・・・」 
小学5年生。
男だけの3人兄弟の長男だ。
末っ子は赤ちゃんだから、かわいいと言った。
「釣るときは釣るの」見本。ただ、数があがりません
その分、おいしさは倍増するようです
ただでは転びません