ぷっちん

こちらに向かって船が走ってくる。
我が家の木立に隠れて見えないが、イカダの上にチヌ釣り人がいるはず。
その釣り人を迎えにやってきたのだ。
釣り人は、朝はやくから日暮れたっぷりまでイカダの上で過ごす。

いつでも竿先を見つめている。
雨が降ろうが、風が吹こうが、灼熱の太陽に丸焦げにされようが、逃げない。
夕暮れに船が迎えにくるまで。
そしてだいたい、「いつものように」、迎えの船に空のクーラーを放り投げるのだ。
修業僧にでもなれば、きっと不出世な名僧になっただろうに。
他人には理解できない、実に不思議な世界である。

入り江に大きな曳き波を残して、対岸に向かってチヌ釣師が帰っていく。
その波に大きく揺られながらワタシの舟が走り出す。
ほんの数分の距離だから、手漕ぎでもいいぐらいだが。

今季初めてのアジ釣りに挑戦である。
ダメモトで、まず様子うかがいだ。
夕日が山の陰に隠れ、帰りたくなってきたのは釣り始めて1時間以上も経った頃。

いきなりだ。

ズゴン! ズゴン ズゴン ズゴン!!
予想なんてなんもしてなかったから、パニクッちゃって、
強烈な締め込みにあって、
エエ歳こいて、
何を言ってんのか、
大声で
さかんにウメイテ・・・ホエテ・・・泣いたりして

30cmを越えると、アジと言えどもその引きは強烈。
しかも水深が7〜8mに加え、PE1号の糸だから手ごたえは激震級。
ツラカッタ半世紀が、これですっかり消し飛んだ・・・そんな感じです。

一匹のオサカナで、こんなにシアワセになれるなんて・・・
だから、あけて次の日の夕暮れもチヌ釣師とバトンタッチして、
又舟をだした。

しかし
・・・
しかし
・・・ ・・・
時間がドンドン過ぎていく。
西の空が茜色から灰色に変わっていく。
なのに、なんで? なんでなの?
きのうはヨカッタじゃないのよぉ

つぶやけど、祈れど、
変化のない海。
コトリとも応えてくれない海。
・・・・・・ さ・み・し・くて

・・・アカン
(なんだかまるで東北セブン調になっちまった)

最後の賭けにいくか。
帰り道の別ポイントにアンカーを入れてみっか。
なんちゅうたって、まだ夏だぁ アジはいねぇベさ
今回はサグリの予定だったから・・・・
そもそもサグリの予定だからね、

オラに釣れないということは、
「ヤツらはまだ来てない」ということの証じゃから。

じゃあ、きのうの大アジは?

あれは、オラのウデが飛びぬけてエエから・・・・ま、そういう結果にしとこ。
エサもほとんどないし、
暗くなっちまったし、
先刻来から青イソメがついている仕掛けを海にドボンだ。

ただでさえ、頭がボワーとしているのに、
単三乾電池4本内臓の重いヘッドランプを、長いあいだ
頭につけとるものだから・・重い頭の中がグラグラして
プッチンしそう。


別荘の灯りがプッチンと点灯。

オッ オッ オッ
頭がついにプチプチ
 プッチン!
青イソメの胴付き仕掛けが
ダ、ダ
 ダブル!

サビキ仕掛けにも
ト、ト、ト、
 トリプル!
2号ハリスもプッチン、プッチン

5分か10分ぐらいか
時間経過がまるで思い出せないくらい
真夏の夜の不思議な出来事でした。