記憶のかなた


ひとりで釣りをしているとき、
あるいはひとりで山を登っているときでもいい、
とんでもない素晴らしい光景に出会って、
さて、どうしたらイイものだろう。

こんな時、ひとりだったら誰にも気を使う必要がない。
ひとりだから出来ること、
大声を出したってかまわないさ。
ボクの場合はオカマみたいに
「アア・・アア・・アア・・ ・・グフッ 」と、ヘナヘナ声で、
最後に泣きを入れ感動終了となる。

目に涙を溜めながら、感動を頭に焼き付ける。
ナルシストだから、そんな自分に酔ったりしてね。
だれかが目撃したなら、こんな恥ずかしいことはないや。





海と山と空が真紅に輝きました。
見事な夕焼けです。
暮れなずむ海が急に賑やかになったようで、
今までの釣れなかったモヤモヤが一気に吹き飛びます。

竿先を西に移動させ、最高の釣り座を構えました。
世界で一番豪華な釣りです。
波柔らかく、至福のひととき。
ココロは茜色の山のかなたに飛び、少年のころの記憶を
追いました。

魚捕りに明け暮れたガキのころ、
帰りをそくすのは、いつもの夕焼けでした。
あの少年の黄金時代が、おなじ茜色の空とともに
蘇ってきたんです。
    
夕焼けでココロが満たされたからもうイイやと、
いままで一匹も釣れなかったことに納得しました。
ボーズだったが、夕焼けの独り占めでチャラになった
ようで。
もう帰ろうとしたんです。

無欲な気持ちになれて良かったなあ。
人間、ココロにゆとりが出来ると何がどこでどうなるか
わからない。
後片付けを始めまして、でも、竿はそのままで

あっ、あっ、あっ、という慌しさが、つぎつぎと
襲ってきまして、ええ、なにがどこでどうなったか

・・・結局、欲深いのであります。