スーパー、フイッシングマン

まず、夕まずめを狙った。
台風の影響で南から次々と雲が押し寄せている。
引き摺り釣りでスズキを狙った。

この時期、海が荒れている状況で、引き摺りでスズキが
釣れるとは、だれも言ってないし、どこにも書いてなかった。

引き摺りは文字通り、仕掛けを船で引き摺っていくもので、
仕掛けの先端にはワームと言われる疑似餌がつく。
しかも手釣りが基本。
なんだか、古くからの伝統漁法を想像してしまう。

船は南風に対抗して進むから波の飛沫をまともに受ける。
荒波に翻ろうされ、前に進めない小船がひとつ。
伝統漁法を受け継ぐ老練漁師みたいだ。
二日目の早朝は濁りまじりの上げ潮。
デカアジは35cmを超えていました。

アオリイカは今年生まれたもの。
美味しさ抜群です。

長年、憧れてやまない「老人と海」の世界。
大物の釣れる予感がにわかに高まる。

やがて、海がまたたく間に暗くなった。
同時に熱帯スコールのような激しい雨が襲った。
こんなことで怯んでいては、めざす「老人と海」は遠ざかろう。
「オレの行く手に嵐は付き物よ」
漁師は何事もないかのように、淡々と漁を続ける・・・
つもり・・・でいた。

つもりでいたのだった・・・が、
いきなりのスコールで、パンツの中まで水浸しになった。
おまけに仕掛けはエンペラに巻きついて、とどのつまり
釣りをしようにもできなくなった。
悪いことが重なるものだ。
強襲の雨で視界が利かず、方向さえも分からなくなった。

正直に言うと、
ただもう、逃げ帰るのに精一杯。
嵐の怖さで腰をぬかしていたのだ。




翌日の早朝。
悪天納まって穏やかな海。
我に帰って、手堅い釣りに戻ります。
思ったとおりの釣果があがりました。

でもやっぱ、海は荒れていたほうが充実感があるよなあ、
なんてふうな強がりは、しばらく言わないことにしましょう。

アオリイカを狙っていた船です。
若者らしき二人が声を潜め、何か話しています。

「おい見たかよ、あのオッサン、また釣りおったぜ」

「おお、見た見た、立て続けに3杯上げてんだ」

「あのオッサン、ひょっとして噂のヤツかもしんねえな」

「そうだ、噂の男に違いないかも」

「そうか、あれが
スーパー、フイッシングマンかー」




ワタクシめには、
そのようなことを話しているように思われました。


......