都合よく生きる

......

どういうわけか、物忘れが多くなりまして。
日増しに多くなりますから、妻がたいそう心配しましてね。

発作的に詰問するんですよ。

「今日の昼食は何だったか、答えなさい」

「それじゃあ、朝食は」

「しっかり思い出しなさい! 昨日の夕食は」



















ワタクシ、脳みそが少ないのです。
頭が並はずれて小さいので、中身も少ないのです。

一見、頭が小さいからイイ男に見えますが、ええ
、その分苦労が絶えないのでありまして、
帽子なんか小学生用のを買い求めないと・・・

しかし物忘れは悪いことだけではありません。
イヤなこと、辛いことは、すぐに忘れたい。

この忘れるスピードがですね、頭が小さい分、
並はずれて早いときますから、うれしいじゃありま
せんか。


いつだったか忘れましたが、はい、さっそく忘れモノ
のお話です。

たしか、四月の初めだったと思いますが、
コウイカを釣ろうと舟をだして、アチコチさんざん動き
回って、結果は・・・忘れました。

たしか次の日だったように思います。
悔しかったんでしょうな。
釣果確実なキス釣りに舟を出したと記憶しています。

生エサが無かったので似餌のゴカイでした。
結果・・・さて思い出せません。

二連敗。
かすかな記憶ですが、ただの一度だって魚信を感じる
ことは無かったと思います。



シアワセですなあ。
記憶に残らないって、なんてシアワセなんでしょう。

さて、その後どうしたんでしょう。
疑似餌はダメだったんで生餌にしないと、ということで
ゴカイを掘りに、出かけたことまでなんとなく・・・

干潮を狙って、JAみかん選果所わきの干潟に
バケツもって行ったような。

そうそう思いだしました。
軽四のオトウサンが、珍しがって話しかけてこられました。
やがて話に熱が入って車から降りて、なんやかんやと。

ふっと目にとまったものがなんと!
軽四がスルスル動き出すじゃありませんか。
落差2mの海に向かってまっしぐら。
車の半分以上が海に乗り出したその時、さあオトウサン、
軽四をわしずかみにしましたよ。

オトウサン動けない。
二輪は道路に、残す二輪は空中です。
手を放すと、即、海に転落。

ワタクシ、必死になって堤防を駆け上がり、
通りがかった人と協力してエイヤエイヤと汗だくでした。

話に夢中になったオトウサン、サイドブレーキを引くのを
忘れたのです。


そんなこともあって、バケツが日陰に置いてあるのは
何かと申しますと、キス釣り用エサが入っている訳で。
エサのゴカイは、たいして捕れませんでした。



それからしばらくしてです。
最近のことですからしっかり覚えています。

近所のかたから、マダイの差し入れがありました。
海上釣り堀で釣ったという養殖ものです。

くすぶっていたものが、点火しました。
翌日、ポイントに向かったのは言うまでもありません。

まるでアタリがありません。
これで釣れないとしたら、
4連敗、完敗です。

涙をぬぐっていたら
いきなり女神が訪れた。

悪夢よさらばじゃ。

孫針りが、かろうじて口上に
刺さったのでした。











尾びれの形が物語ります。
これは天然ものではありません。

養殖生簀から逃げ出したものか、
養殖エサのオコボレ一族でしょうね。

しかし、そんなことはすぐに忘れるでしょう。

記憶にあるのは、激しかった竿のしなりと、
あとに残った筋肉痛かな、ヘヘヘ







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