| よもやここまで |
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| 玄関の橋を架け終えて、ようやく家としての体裁が整ったみたいだ。 うっそうと茂る樹木を切り払い、ビニ−ルテ−プで縄張りしてからおよそ一年と半年。 実際ここまで出来あがるとは夢のようだ。 将来に永住する地を求めていたとは言え、この地にボ−トをおろしツルハシを打ち込んだ のは、いつの日だったろうか。 あれから６年、よもやここまで大きく展開しようとは想像もしなかった。 ここに通いつめて４年も経ち、すっかり馴染んできたころか。 妻の退職金と、「お金は使うためにあるんじゃない」の一言が、「まともな家」を造る決心を 促した。 しかし、いざ着工となると心細いのは財布の中身と限界。 それでも自分で出来る範囲の工事は、自分でやれば、ある程度は負担も軽くなるだろう。 と楽観的に構え、工事の区分を 「基礎」と「上屋」と「自分の仕事」と分けてみた。 困難な基礎を請負ってくれたのは地元の工務店。最初に建てた小屋からの付き合いで 家族的雰囲気が気に入ってる。 ユンボ（土木機械）をたくみに操る監督と、土方の爺さん３人衆はいつもニコニコ冗談が絶 えない。キツイ仕事は楽しんでやりゃなきゃ損だということですか。 世話好きで、しかも熱心過ぎますからおよそ工務店らしくないのだが……それでも地元で は一流企業の仲間入りとか。 | |
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一方、はるばる名古屋から住み込みで、上屋を請負ってくれたのは大工の精鋭集団。 こちらは兄弟、親せきで固めたファミリ−チ−ム。 仕事のごまかしなどあろうはずがない。 棟梁は南国鹿児島の出身らしく暑がりで、冬でも毛布一枚で寝るという。 苦労人らしく無口の上、頑強な体に元凶な顔付きで、最初は戸惑いもあったが釣りの話しが きっかけで打ち解けた。 おどろいたことに、タヌキの「太郎」にエサを与えるとき 「 ﾀﾛｳ ﾀﾛｳ ﾀﾛｳ 」と小声でささやく のだ。 まるで子供みたいなやさしい声に、ホントあせってしまう。 牛乳を浸した食パンを毎日与えていたと、後で聞かされ又、びっくり。 体に似合わず無邪気な大将だと呆れてしまう。 人生をきれいに二つ分け、一つは大工、もう一つは渓流釣りとアユ釣りに、かまけてきたという。 それなら話しが弾まない訳がない。 釣り談義で寝不足になることも、２度、３度あったろうか。建前を済ませたあとは棟梁自ら住み込み、 たった一人で仕上げた。 磨かれた技は潮風のあと押しもあって、たっぷり注ぎ込まれたに違いない。 小生の仕事は建築の設備設計。いつのまにか職人気質が身について、不器用な世渡りと貧乏を友 とするようになった。 しかし、幸せなこともあるものだ。 職人気質が通じ合うことで、身に余るものをいただいた。 この小屋は、こうした一級職人たちの後押しがあって誕生したもので、改めて沸いてくるのは 「感謝の気持ち」。 | |
