残照
昨年売りにだされた別荘。
ヨチヨチ歩きの幼児を抱いてたお父さんの記憶が、
まだ新しい。
奥さんが若く見えたから印象に残っているのである。

別荘が出来たての頃、訪ねてみたことがある。
私が土地を手に入れ時だった。
先住民としてのアドバイスをいただきに伺ったのである。
後にも先にもそれが最初で最後。
私より一回り歳を重ねているお父さんだった。
少し無愛想だったのと、別荘がとても気に入り得意そう
だったのが記憶に新しい。

この家の前の道路は我が家に続いているので、通り
すがりにどうしても目に止まってしまうのだ。
それが昨年から売りに出されたから興味津々、
買い手がつかないから、どんどん値が下がってるらしい。

手放すのは事情があってのこと、他人の詮索はアカン
のだが、
かねてからの疑問が今再び蘇ろうとは

「もし、売りに出されても買う気になる?」




三輪車であそんで遊んでいた小さな女の子。
よほど誕生が嬉しかったのか、小屋の名前に
その子の名を記した看板が





今はやりのウッディハウス。
入り江を挟んで対岸に見える。
威風堂々と、とても目立つ。
南斜面に建ち、海の眺めは一級でしょう。

3年ぐらい前だったか、一晩だけ灯りがついた。
それ以降人の気配がない。
それ以前も電灯がともるなんて滅多にないこと、
だから灯りを見つけたときなんて感激し、目が離せな
かった。
真っ暗な対岸にポツンと電球が点り、その輝きは海の上に
浮かんで人恋しい気持ちになります。


このウッディハウスは建って10年近くになるだろうか。
私たちが五ヶ所湾を初めて訪ねたのも、ちょうど同じ頃。
雑誌の売り物件情報を頼りに、新築ウッディハウスを
間じかに確かめるために来た。

「眺望抜群、小さな菜園付き、木の香りたっぷりの
 豪華別荘」
その殺し文句は、けっきょくかなわぬ夢でしかなかった。
とにかく菜園面積に難色を示した妻が、お金に関しても
同じ感想を持ったから話にならない。
いったいどこの金持ちが買うのだ、と憤慨したものの・・・

月日はあっという間に過ぎていく。
あこがれのウッディハウスが辿った軌跡は
太い丸太で組まれていて
いつかはこんな家に住んでみたい・・・と
男は思うのです。

映像が全てを物語ります