非安住地帯

吾らアオダモ一族が陣取る場所は敷地の西側。
冬の季節、海から吹き上ってくる西風の破壊力は、
凄いの一語です。
強靭なアオダモといえど、いつまで耐えられるか、油断できない
のであります。

そもそも吾らが陣取る以前は、どんな状態だったんでしょう。
ちょうど主人が土地を入手した5年前に遡ります。
敷地全体に竹が覆い、まさにジャングルそのものといった感じ
でした。
竹林を一掃するのにおよそ一年を要しました。
それから半年後に、記念樹としてハナミズキが植えられたのです。

この花木は近ごろ街路樹としてよく見ます。
個人の庭にも一本は欲しくなるようで、切り開いた土地にぜひ
植えてみたい、となったわけです。
暗鬱なジャングルに替わり、紅で彩られるハナミズキの美しさは
これからの”五ヶ所スタイル”を期待させます。
家族で植樹を祝い、記念写真を撮りました。

しかし期待空しく、2年過ぎても花が咲きません。
毎年うどんこ病に犯され元気がないのです。
しびれを切らした主人は、移植を決意しました。
そして後釜として、コナラを植えることにしたのです。


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コナラは雑木林の代表格、潮風や強風にも耐えます。
しかも落葉樹ですから四季の移ろいも豊かです。
”美しき日本”の風景に欠くことはできないでしょう。

それに比べハナミズキは、北アメリカからの舶来ものです。
外国ものを有りがたがってチヤホヤするのは良くありません。
だいたい五ヶ所で咲かないということは、ケシカランことです。

主人はコナラに、”美しき五ヶ所の里” を託してみようと思い
ました。
コナラを植えてから一年、見違えるほどの成長です。
だが、そのタフな成長力に、逆に不安も芽生えてきたのでした。

「 大きく成長したら、それも困る、畑に陽が射さなくなる、
 それに肝心のものが欠けている、華やかな花が無いのだ 」

花木でないのが、致命傷となりました。


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「 海が展望できる西側は花木としたい。 遠く霞む海に、たくさん
 の花びらを浮かばせよう 」
主人の構想は、月日とともに揺るぎなきものになっていきます。
そして、コナラの運命も決まりました。

バットの材料となるアオダモは、綿毛のように白い花が咲きます。
不要になったコナラは移植され、後釜にアオダモが据わりました。
アオダモ一本だけでは寂しいので一ヶ月後、さらに一本が追加さ
れました。

「 一帯をアオダモだらけにしよう 」
主人の雑木林構想が加速します。
そしてアオダモの苗を追加するたびに、何かが追い出されるという
展開になりました。


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アオダモの犠牲となり、追われた花木たちを紹介しましょう。
ハナミズキが2本、コナラが3本、ザクロが1本、サルスベリが2本、
合計8本にもなります。
ザクロは一度移動し、一年してまた別の場所に移動しました。
いわゆる玉突き移植といえるものです。

ハナミズキなど最悪です。
コナラに席を譲って数メートル移動しました。
だが、そこは玉突き移植の戦場地帯です。
すぐにまた追い出されることになりました。

新たな移植先は買い増しした土地でした。
そこは北側下り斜面、過酷な気象条件が待ち受けています。
ハナミズキは、そこでも安住が適いませんでした。

しばらくしてダンコウバイの苗木が来たのです。
ダンコウバイは半日影で育つ元気さがあります。
早春に咲く黄色の花も見事です。
ハナミズキはもう諦める他はありません。そそくさとダンコウバイに
席を譲りました。

しかし、ダンコウバイだって油断できないのです。
結局、あとから来たウメモドキに席を明け渡すことになったのです
から。


ところでハナミズキは、最終的にどこへ行ったのでしょう。
夏でも陽の当たらない隣地脇に、痩せ細った木が立っています。
それがハナミズキだと想像できないほどです。。
おそらくこれから一生、花を咲かすことはないでしょう。


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今までの様子は苗木どうしの玉突き移動でした。
移植はこれだけが原因ではありません。
あらたに”配置の妙”なるものが加わりました。

ニワカエンゲイカの主人が学んだ不等辺三角形。
「 配置が規則的なものは不自然なんだ。
 不規則であってこそ自然界の真の姿、なるほど納得 」

三角形に植えられた苗木は、ことごとく不等辺三角形に修正され
ました。
妥協なしの移植が続きました。
吾輩の1m移植は、そのためだったのです。



吾輩には、間じかに迫りつつある不幸が見えます。
吾ら苗木は、幾多の傷害にもめげず、どんどん成長していきます。
数年先には、目を見張る大きさになっているでしょう。

となると、
やがて隣どうしで狭苦しくなり、どちらかに消えてもらう、という
ことになりかねません。
十年先、二十年先も、不安の嵐は止まないでしょう。

不安が一掃され、真の安堵を得るには、
ご主人の老衰こそが待たれるのであります。








ビワの苗木が元気がありません。
3年待って、とうとう立ち退きとなりました。
替わりにスイフヨウが据わります。













アオダモ3本のトライアングル。
見事な不等辺三角形です。

これまでに至った犠牲は、

    どんだけェ〜






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