強制収用所
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移住は目前
いろいろな楽しみが待っています。
暖かくなったらアレもコレもやりたいなあ。

それなのに、なぜ今この一番寒いときに、五ヶ所に出かけなくてはならないのか。

後輩の為です。

汗をたっぷり流し、先輩と過ごす濃密な時間こそが、後輩の人生に必要だったのです。




穴掘りの道具です。

穴掘りの途中に石があれば鉄棒で砕きます。
また、木の根っこがあればノコギリで切り取ります。

穴の深さですが、
杭であれば60cm以上掘り進めます。

スンナリといかないもので、
ザセツとハイボクがつきものです。





丸太を立てることにしました。

土中に埋まる部分にはコールタールが塗られ、
他はクレオソートで防腐処理がしてあります。

さて、穴掘り開始

ああ、嘆かわしい!
どうです、この後輩のへっぴり腰

ていねいに手ほどきします。
5分おきに罵声を浴びせるのが、ここの流儀です。

けっして弱音をはきません
うれしい後輩です。







穴が掘り終わったら丸太の挿入です。
丸太にザイルを巻きつけ、二人がかりで降ろします。

いつものように
何度も何度もやり直しをします

穴が小さいと言っては丸太を引き上げ、穴を広げてまた降ろします。

穴が浅いと言っては丸太を引き上げ、深く掘ってまた降ろします。

穴が深すぎたと言っては丸太を引き上げ、土を入れ浅くしてまた降ろします。


後輩ですから不服があっても耐えます。





最後に丸太の根元をコンクリートで固めます。

そして郵便ポストを取付けて完了。
完成を喜んで記念写真です。

足元に注目してください。
きちんと揃え、後輩のなんと慎ましいこと。

それに比べ先輩の態度のデカイこと。








穴掘りの指導です。

後輩が開ける穴は垂直ではありません。
すべからく傾いてしまうのです。

なぜ傾くのか、ワタクシにはわかってしまう、
長い間サラリーマン生活をしていますと、
どうしてもココロが歪んでいきます。

そうです、穴の傾きこそココロの歪みの反映と
いえますね。

ココロの真っ直ぐな上司に出会うのは奇跡です。
定年で退職するまで不本意な上司に仕えねばなら
ない、なんてことはザラにあることです。

純情だった後輩も、知らず知らずのうちにココロが
蝕まれ、すっかり汚れてしまいました。

後輩はワタクシの分身でもあります。
とてもカワイイ、
黙ってほっておくわけにはいかないでしょう。

けっして遅くはない、
絶大な治療法を、躊躇してる場合ではありません。

ココロの蘇生は、すなわち五ヶ所にありました。

五ヶ所は強制収用所です。





シカとイノシシの侵入防止、
敷地境界に沿って杭を立てていきます。
海辺まで延々と続きます。

穴を掘り、杭を挿入し、セメントを流し込んで
ようやく一本の杭が立ちます。


収容生活、延べ六日間。
毎日毎日、シゴキ続けたかいがありました。

どうです!この真っ直ぐに立ち並んだ杭。


とうとう退所の日がやってきました。
帰るときに見せた後輩の笑顔の晴れやかさ。

嬉しさに満ち溢れていました。