海草の肥料
のおかげで
トマトも元気
無 念

バタバタバタ
黒い飛行体が二つ三つと、トマトの畝から空に登っていく。
買い物からの帰り、畑を見下ろす自動車置場に車を止めた矢先のこと。

黒い飛行体の先端に赤い物が。
「なっ、なんだ!」
とっさのことに我が目を疑った。
こんなことが こともあろうに、小生の目の前で昼間から抜けぬけとカラス
がトマトをくわえて一目散に飛び立った。
「アホ− アホ−」と、まるで人を馬鹿にした鳴き声を残しながら。
あざけているのか、しばらく頭上を舞っている。

犯人は、あ奴だったか。
もし小生が羽根があって飛ぶことが出来たならどこまででも、たとえ地球
の果てであっても追いかけていきたい。
もしミサイル砲が手に入れば、巣をめがけてドカンと打ち込んでやりたい、
かりに打ちそこなって畑が陥没しようもかまわない、懲らしめるには命を張
ったっていいのだ!

盗賊の手から逃れ、わずかに残った大事な大事なトマトであった。
赤く熟したものはすでに持ち去られ、わずかに残されたのは青いものだけ。
でも今日の太陽をしっかり浴びて、ほんのり赤みがでてきたのだ。
嫁にやるまえの恥じらいが残るころ。
もう少し熟するまでと我慢して引き止めて残しておいた、いとしき娘たち。
われらジジ ババの最後の楽しみまで奪うとはなんと冷たい仕打ち、薄情
にもほどがあろう。
やつらには情けというものが一欠けらもないのか。
ならば、眼には眼をだ。

ガキの頃は雀を何羽か打ち落とし、腕にそれがしの覚えがある身、 遊び
で鍛えた無類の必殺技を見せてやる。
作戦を決行すべき、メイドインUSAの飛び道具をさっそく買い求めた。
700円もするやつで、昔の物に比べてかなりパワ−アップした俗名「パチ
ンコ」という武器。

ただ、今の今迄活躍したことは一度もなく、残念でしかたがない。
狙ってかまえる前に、すばやく気づいて逃げるから勝負にならないのだ。
いつも玉が空しい放物線を描く。
もうこうなりゃあヤケクソで乱発射だ、万に一つでもいいから当たれ!

玉の届かない頭上の彼方から鳴き声がして、「アホ− アホ−」と、いつま
でもいつまでも消えることなく。

無念じゃ …