家のほうから西に
のぞむ身近な山。
海岸近くに猪の
棲家があります。

文章とはあまり関係
がないかも。
神領の頂

「カ−ン」 「カ−ン」と、入り江を挟んだ竜仙山の麓の丘から時折、かん高い鳥の
鳴き声が聞こえてくる。
どうもキジが鳴いているらしい。
あのあたりはキジが多いのだと、地元の人が教えてくれるまで不思議に思って
聞いていたのである。
猿も、めっぽう多いようだ。
幸いに狸は犬科で、すでに手なずけてある。

キジにサルにタヌキと家来は全員揃った。
これで婆さんに「きびだんご」を作ってもらえれば、いつでも鬼退治に出れるのだ。
このきれいな入り江を、産業廃棄物で埋め立て、一儲けを企むふとどき者の「鬼」
どもが出没すると聞いている。
要請さえあればいつでも征伐してくれようぞ。……ただし、小生も若くないので家来
の働き次第ということだが。

さて、竜仙山に登って「初日の出」を拝もうと、夜明け前に妻と出かけることに。
前回の登りで偵察はすでに済ませてあるので、正規の登山道を懐中電灯を照らし
て、夜間登山とシャレてみた。

姿は見えぬが、人の声が上からも、下からも聞こえる。
麓から不意の気配に慌てた犬の吠え声が、谷間に響き渡ってうるさいほどだ。
頂き近くの社では、暖をとるための焚き火が煙っている。誘われて思わず、お神酒
をいただいた。
頂きには、ぞくぞくと人が集まり、狭いので転げ落ちそうである。
小学生の女の子もいれば、元気なオジイチャンもいて、みな知り合いらしく、挨拶
を交わし、急ににぎやかになってきた。

やがて初日が昇り始める頃、元気な方が前に進み出て、祝辞を述べられる。
これは毎年繰り返されるおごそかな行事なんだろう。
そして最後に「それでは」と、全員そろって三拍子の仕切りが、元気一杯に打ち鳴ら
された。

いやはや、 あっけに取られてしまった。
……ふり向くと妻もニッコリ。

すっかり白んだ山頂から、はるか東の方を望むとスペイン村のジェットコ−スタ−が
見て取れる。
南の方には熊野灘に浮かぶ御座の白き海岸線が、 西方には海に落ち込む山々が
はてしなく続く。
振り返って北側では、谷を挟んで、おおらかな稜線をもつ牛草山が朝日を浴びて輝く。
いずれ登ってみたい山だ。

すっかり明るくなって下山支度。
先回の下山時はただ放置されていたミカン畑が、今はすっかり伐採されている。
惜しい!一本でもいいから分けて欲しかったのに残念。
手をかけなくなった木を、いつまでも放置しておくと天敵の猿たちの餌場にになってし
まい、それではマズイので、いわゆる「食を断つ」という事ではなかろうか。

と、そんなことに思いを巡らせながら下山の歩は、切り捨てられた木への未練がつの
って、ヨタヨタと、
歩む力をなくしていった。
……もったいないなあ。