娘達の海

対岸の山並みに入道曇が起つ夏。
この小さな入り江に、若い娘達の嬌声が絶えることはなかった。
さっそく水着に着替えて次々に海に飛び込んでいく。
「見てっ 見てっ」
一番あとから小屋を出てきた子は、照れくさそうに水着を披露。
「かっわいいっ」
と口をそろえ大声援。
……憎まれ口の多い娘の、高校のクラスメ−ト達である。

名古屋からJRで伊勢駅に着いたのを、先ほど迎えに行って 戻ってきたば
かり。
貨物用ワゴン車の荷台に、7人の青少年を詰め込んでのお迎えで、半時間
以上も要した。
車に酔う子がいるらしく、みんなで歌を唄って励ましてきたのだ。
陽気な歌声が、真夏の田園地帯を駆け抜けていく。
やさしいハーモニーに、年甲斐もなく気持ちが高ぶって……。

乏しい小遣いを工面しながら高校生活初めての合宿。
さあ今から、自分達だけの自炊生活が始まる。
小屋に荷物をほうり込むや、いそいで海に駆け下りていく。
海辺では素足になって、軟らかな芝を飛び回り楽しんでいる子もいて。
落ち着く間もなく、やがて皆で対岸に向かって泳ぎ出す。

さて、
かねて娘との約束どおり、しばらくは姿を消すことにしようか。