夏ふたたび

あれから2年以上過ぎた。
クラスメ−トの仲良しグル−プは今もって健在らしい。
さすがに高校3年の受験期には来なかったが、卒業して
それぞれの学校に進学し、再び夏の五ヶ所に集合したのだ。
運転手の出番を期待したが、もういらないという。
そうか、もう運転免許を持てる年になったんだ。

ときどき電話が鳴る。
小遣いが乏しく高速道路を使えないこともあって、いたると
ころで道に迷うらしい。
電話の向こうに大騒ぎしている彼女達が目に浮かぶ。
ハシャギ声に消されて娘の声も聞こえないほど。
「ありがとうございました」と、おおきな声をそろえて五ヶ所
を去ってから、もう2年も経つのか。
少女の幼気を残していた彼女たちも、もう少しで大人。
どれほど変わったのか、成長の姿を是非見たいのだが
運転手が不要とあれば自分の立場をわきまえるしかない。
管理人を装って自分も出かけようかと内心思うものの、
これまで硬派を気取ってきた手前、素っ気ないフリを通す
ことにした。
バカな娘でも、やせても愚妻の子ども。父親の心を軽く見破
っていたのだろう。
電話などかけてきよってからに…
「あー、オトウ、いま、どこどこ」
一日に何度も。
ただでさえ低いうえにドス声で、まったく愛想のない内容ば
かり。
ただいつの間に、こうした気遣いができるようになったかと
・・・・・・・。
 髪を染めはじめた中学のとき、ここでひるんではいけないと
無視してやった。
ジュ−ス缶にまぎれてチュウハイの空き缶が混じっていた
高校一年、これぐらい普通だとばかり無視してやった。
週末にやれ誕生会だ、学園祭の打ちあげだと泊まり歩いて
も無視してやった。
日増しに顔をいじくってあわれなマンガ的になっていっても
無視してやった。
部屋のなかが食いさしの菓子やカップラ−メンであふれて
異臭がただよってどうにもならんときも、戸をしっかり閉めて
無視してやった。
禁止されているアルバイトにつぎつぎに飛びついて、帰りが
11時過ぎになっても無視してやった。
そして今。
バイトしながら自分の力で自活するといって家を飛び出して
アパ−ト生活。
きまって一月に一度、金をせびりに帰ってくる。帰るのはそれ
だけが目的。
そんな娘でも信頼をよせるのは、すてきな仲間に囲まれて
いるからかな。
それも五ヶ所の空気をたっぷり吸い、思い出が一杯詰まった
天然児達だから。

娘は、看護学校の一年生。
母親とおなじ坂を歩み出した。
肖像権の買取価格、前回より千円高
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