前方に大島
灯台がみえます。
写真は別の日に
撮ったもの。
寄港

処女航海のときは、何も持っていかなかったので今回はスキンダイビング
の3点セットを船に積む。
出来悪後輩は、前に懲りて何かを一杯詰め込んだポシェットを腰にまきつ
けている。
ボクも小使いを、たっぷりと用意した。
今日は、遠出を決め込んでいるから昼飯はどこかの漁村に寄ればいい。

例によって、不安定なジグザグ運転となるので後輩を叱りつけ、船の中央
にうずくませることにした。
疾走する漁船が去ったあとに大波を残すから、それを横から食らうと大きく
揺れ傾いてヒヤリとする。だから漁船が近づいてくるといつも緊張させられる。

さて、目指すは沖合いにポッカリ浮かぶ大島、葛島、逢原島。
できれば上陸してみたい。
白が眩しい灯台が目印の大島、岩礁体に張り付くように建っている。
波しぶきが島を覆い、うねりが大きな音をたてて岩にぶつかる。
とりあえず今回は偵察ということで、横目で確認してすみやかに通過。

葛島は一番大きいが、一番外洋に近いので一級のうねりがまともに打ち上げ
ている。
とりあえず迫力を確認して、今回は素直に通過と。
なんともだらしのない処女航海となってしまった。うねりのデカサに恐れをなして
どこでもいいからって、宿田曽浦の漁港に逃げ込んだ。
陸地に立つと途端にホッとし、久々の安定感に身もココロもほころぶ。
思い出したように空腹感がズシンとやってきた。
語らずとも自然に足の赴く先は、食い物が並ぶ雑貨店。
出来悪後輩は先回の記憶がよほどみじめだったらしく、食いきれんほど買い込ん
でいる。

真昼の人気のない海岸縁では、老婆がせっせと干物造りに精を出す。
ここはかつては、遠洋漁業で活気があった基地らしい。
今でも漁船が多いが、昔とは比較にならないのだろう。
日に焼けた皺だらけの手が、忙しく魚を並べていく。
「子供は、みな外に出ていってしもうてからサ、盆と正月にみやげ持たせんとな 」
腰を伸ばし、嬉しそうに語った。
「せやけんな、なもかも どさっと持っていくんやからサ、かなわんさなあ」
でも……うれしそうだ。

あと少しで都会に出ていった子供たちの里帰り。
孫たちに会える喜びが隠し切れない。
日焼けした横顔に、やさしいまなざしが…。