ヨットハーバーです
文章と関係ありま
せんが…
船を待たせて

宿田曽港を後にして、湾内に浮かぶ逢原島の砂地に船を乗り上げた。
この島周辺は禁漁区となっている。
大分前のことになるが、地元の少年達がテトラの脇に潜ってサザエを
採っていた。近づいて話しかけたいと思った矢先のこと、頑丈な大人が
やって来て怒鳴りつけたのだ。
サザエは禁漁の対象だったのだろう。
こってり絞られて、しおらしくうな垂れている少年達の坊主頭がとても
印象的だった。
彼等に同情してしまったからボクも悪い大人だ。

少年は、してはいけないことを、してしまう。だから少年らしいのだ。
しっかり叱りつけるのも、昔から大人の当たり前の姿。
今ではどこにも見なくなった光景が、ここではまだ生きているんだなあ
と改めて感じたのである。

一方、ボク達は中年でクタビレタ大人なのだが、気持ちだけは少年に
近い。
誘惑にさかわらず、気持ちに素直に従ってしまうことにする。
子供以上にワクワクして、どもならず、「禁魚区」故に潜るのだ。
怒られたら怒られた時である。 密漁ではないんだと開き直ろう。
そもそも密漁する訳ではないし、海中観察に違いないのだが、それでも
禁魚区での潜りは一歩間違えば厄介ごとになりかねない。
緊張しながらの潜りとなる。

潮通しの良い岩礁帯を覗くと、石鯛やイサキが目の前を横切る。
グレの群れが、こちらに一斉に目を向けて様子を伺っている。
潮の緩むゴロタには、やたらとベラが多い。
島の周辺を眺めて、はたして魚影の濃さとなると疑問におもう。
かつて日本海のあちこちを潜った経験から、特別濃いとは思えない。
禁漁区にしては、期待はずれかもしれない。
しかも磯焼けがはなはだしく、白く変色した磯場に生き物はウニだけといっ
た貧相な景色が広がっていた。

時々、気になって海上に目を配るのは、密漁でないにしても安心して潜っ
ておれないからである。
潜り方が、バタバタ、バタバタと鈍臭く、目立ち過ぎる後輩が隣にいるか
ら尚更のこと。

表層の海水温は、かなり高そうで海底に近づくとグーンと水温が下がる。
浮上してくると水温が熱く感じるほどだ。
透明度も水温が高くなるに従って悪くなり、水面直下では視界がほとん
ど利かない。
なまくらな都会生活で、いつのまにか脂肪が付き過ぎたのか、潜るのが
しんどくなってきた。
気持ちは海底なのだが、肝心の体が水面近くでバタバタもがいてばかり。

帰りの途は、日も西に傾くころ。
途中で、気がかりなポイントで船を停め、のんびりした潜りも楽しんだ。
禁漁区から離れ、余裕のひとときを過ごす。

太陽が落ちる頃には、ふたりは、すっかり少年の顔に戻っていたに違い
ない。