ボラのでかいのを
焼いていると、匂い
に引かれてタヌキが
やってきた。
火も恐れぬ大胆さ。
アジわい

一夜明けて今日も風が無く、釣り日和である。
昨日のサバの感触がまだ残っており、急いて出かける気にはな
らないが、釣り暦浅い知人はいても立ってもいられない様子。

サバ用に太めの仕掛けを用意し、朝焼けに輝く海原をトントンと
舵を進める。
同じポイントに到着し釣りの準備に入るが、「又今日も サバか
あ−」と、うんざり気味に第一声。
少し気取りながら仕掛けを落とすものの、幼稚な体がいつもの
興奮で素直に喜んでいる。

途端に鋭いアタリ。
無邪気にはしゃぎもせず、無表情に淡々とリ−ルを巻く。
ここのあたりを、きちんと動作チェックをしておかないと、「ビギ
ナ−」と区別が付かない。
肩に力を入れないように竿さばきも丁寧にあしらうが、いつ例
の「横走り」が来るかもしれないと思うと、気の安らぐ余裕がな
い。
でも所詮サバである。
遠くの景色を眺め、ベテランを装って竿先に目もくれない…ふり
をする。

「あれ−」
何と、水面より躍り出てきたのはアジではないか。
型は小さいが塩焼きには申し分ない待望のアジが。
そうとなれば、オチョクッタ釣りをやっている場合ではない。
竿先を真剣に睨みつつ、肩に力を入れて、リ−ルをガンガン巻
く。
遠くの景色など目に入る訳はない。ベテランのまねごとなどやっ
てられるかと開き直り、ただひたすら本性の時を過ごす。

同じポイントなのに昨日はサバばかり、今日はアジばかり。
サバがさっぱり釣れない。
みやげには両方持って帰りたいが、サバは昨日の夜タヌキに全
部ふるまってしまった。
てっきり、今日釣れるとばかり思ったからである。

近くまで、お客が数人のキス釣り仕立船が覗きにやって来た。
潮焼けした笑い顔に白い歯がちらちら見える老船頭が、なにか
叫んでいるのだが、よく聞き取れない。
こちらも元気よく「キスの調子はどうですかあ−」などと、あいさ
つを交わすが、多分相手には聞き取れないだろう。
こうしたやり取りは海の上では、よくあることなので。…

仕掛けが野暮ったいので数はあまり上がらなかったが、それで
も初物のアジだ。
思わず笑いがでる帰りの船は、トントントンと小気味よく、晩秋
の五ヶ所湾を今日も元気よく、ヨタリ走る。