レンゲの花と
屋根が見える
のは小屋。
青く見えるの
は海
です。
難題

ここの漁業組合長は名うての気性の持ち主で、威勢が強く、おいそれと
首を縦に振らんそうな。
ヤクザふうの容貌もあって良い印象の乏しい不動産屋と、激しく遣り合っ
たのも、この頃であったろうか。
「郷に入れば、郷に従う」の助言もあり、何としても水を確保したい一心か
ら、すがる気持ちで地元の工務店に身を託したのである。

水は生活用水であるから、[家]の存在することが前提となる。
水道を引くためには、ともかく小屋を建てねばならない。
私設の水道管からの分岐の承諾も、この機会を逃しては後が無い。
余分な出費も、このさい仕方がない。無理を承知で情けにすがろう。
家としてのカッコが付く、必要最小限の規模である小屋が、こうして着工さ
れた。

前後して馴染みになった不動産屋を介して、隣接する真珠小屋の敷地売却
話が持ち込まれた。
その土地は海に大きく接しているものの、わが土地によって完全にブロック
され道路からの降り口がない。
水もないし不便な土地もあるもんだ、と不思議に思っていた。
きっと昔は、船さえ着ければ充分だったのだろう。

その内お金に余裕が出来た暁に安く手に入れてもいいなあ、と密かににらん
でいたのだが、話がにわかに具体的になってきた。
きっと、不動産屋はこちらの気持ちをすでに気づいていたに違いない。
小屋の周辺は、使わなくなった漁具の捨て場で荒れ果て、ほとんど価値が
なさそうに思える。
しかも満潮には敷地の半分が海に没するほどで、積んであった石垣が崩れ、
波に洗われて土砂が流出しているありさまだ。

話を進めるにしても、昔の形に復元するという条件が前提、そうでなければ
簡単に乗らない。
だが、所有者は大層な高齢で、「今」決断しなければ手に入れることは、永久
に適(かな)えられないとのこと。

決断を急ぐことの多さと、不動産屋の巧妙なユサブリにおおいに焦った。

海岸にしか咲かない
ハマボウの花。
日本最大の群生地が
五ヶ所湾にあります。